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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)173号 判決

事実及び理由

一  請求原因事実中、本願考案について、出願から審決の成立にいたるまでの特許庁における手続の経緯、考案の要旨及び審決理由の要点は、当事者間に争いがない。

二  そこで、まず、原告主張の取消事由1について判断する。

右争いのない本願考案の要旨及び成立に争いのない甲第三号証(本願考案の実用新案公報)によると、本願考案は、「合成樹脂で形成されたケース体1に嵌合部6を設け、一方、ケース体1に取付けている時計機構の作動に一定の関連をもつて作動する作動片により断続作動させられるようにしている接点板12、13を鋳込状に具備する保持体10にも、上記嵌合部6に対応させた嵌合部6′を設け、これら両嵌合部を嵌合わせてケース体1へ保持体10を装着するようにしているタイマー接点の固定部」において、「上記両嵌合部6、6′は、その属する本体1、10からそれぞれ嵌合方向7に長く突出状に形成させ、かつ、本体と同時に塑成」することを構成要件の一つとするものであることが明らかである。

ところで、被告は、右のうち「本体と同時に塑成」とある部分は、製造方法であつて、物品の形状、構造又は組合わせに係るものではないから、実用新案の対象にならない旨主張する。なるほど、右部分の表現自体は、製造方法をいうにすぎないようではあるが、本願考案の明細書の記載全体に徴すると、要するに、右表現は、本願考案においてケース体1とその嵌合部6及び保持体10とその嵌合部6′がそれぞれ同時に塑成され、したがつて、それぞれ一体的な構造であることを示したにとどまるものと解されるから、直ちに右部分が実用新案の対象たりえないとするには当らない。

そして、本願考案の明細書の記載、特に実用新案登録請求の範囲の項及び図面第1図ないし第3図に関する説明を考えあわせると、前記構成要件は、さらに具体的構成として、

(1)  両嵌合部6、6′の一方たるケース体1側の嵌合部6は、ケース体1と一体的に塑成された棒体8、9であつて、その棒体は、図面に矢印で示される嵌合方向7にケース体1の厚みとは直接関係なく、その厚み部分の外側に長く突出させること、

(2)  同じく他方たる保持体10側の嵌合部6′は嵌合い方向の長い切目11と長孔8′、9′であつて、その長孔は、前記嵌合方向7に保持体10中に一体的に塑成されるが、その長さ及び間隔は、それぞれ棒体8、9の長さ及び間隔に相対応するように形成されること

としたものであり、これによつて、ケース体1の嵌合部6である棒体8、9を、保持体10の嵌合部6′である長孔8′、9′に嵌合しさえすれば、ワンタツチで両者の嵌合が完了し、しかも、他の技術手段を加えずに長寸法にわたる完全な嵌合が得られるものと認めるのが相当である。なお、被告は、前記構成要件中「嵌合方向に長く」との対象が明らかでない旨主張するが、数値的な比較限定はないにせよ、棒体8、9の嵌合方向7における長さをケース体1の厚みに比較したものであることはおのずから明らかであるから、右主張も失当である。

次に、第一引用例の記載内容が審決認定のとおりであることは、原告の認めるところであり、これと成立に争いのない甲第四号証(第一引用例)によると、第一引用例の考案は、「接片2を備えた熱可塑性合成樹脂からなる絶縁体1の下面数個所にこれと一体に突起11、11を形成し、この突起11、11をそれぞれ地板12に穿設した同形、同所、同大の孔13、13に嵌挿させ、これの地板12よりの突出部を地板12に加熱溶着したことを特徴として成る接片2、2を有する絶縁体1の取付機構」を要旨とするものであつて、地板12(本願考案のケース体1に相当する。)に設けられた孔13、13が一方の嵌合部を形成し、絶縁体1(同じく保持体10に相当する。)に一体的に塑成された突起11、11が他方の嵌合部を形成し、孔13、13と突起11、11とが、同形、同所、同大になつているが、両者の嵌合関係については、その明細書中に「絶縁体1の下面両側に突起11を一体に形成し、これを地板12に穿設形成させる同形状の孔13内に挿嵌して、絶縁体1の底面を地板12面に密接させた後、地板の裏面に突出せる突起部を加熱溶着して両者を固着させたものである。」と記載されているとおり、両嵌合部を単に嵌合させるだけではなく、さらに、地板12から突出した突起部を加熱溶着するという余分な工程を必須の構成要件としていることが認められる。

そうだとすると、第一引用例の考案においては、本来、その嵌合は、地板12の厚みの範囲内でのみ行なわれ、そのため、その補強上加熱溶着の工程を必然としているのであるから、本願考案における前掲具体的構成中、(1)のうち「その棒体は、図面に矢印で示される嵌合方向7にケース体1の厚みとは直接関係なく、その厚み部分の外側に長く突出させること」、(2)のうち「(長孔の)長さは棒体8、9の長さに相対応するように形成されること」及びこれらによつて収める長寸法にわたる完全な嵌合、したがつて、前掲の「上記両嵌合部6、6′は、その属する本体1、10からそれぞれ嵌合方向7に長く突出状に形成させ、」るとの構成要件を欠いているものというべきである。

そして、前掲甲第三号証によると、本願考案は、右構成要件を主体とし、これに他の構成要件とがあいまつて、

(イ)  両嵌合部6、6′がその属する本体1、10よりそれぞれ嵌合方向7に長く突出され、かつ、それぞれは本体と一体にされているから、たとえこれら全部が塑成されているものであつても、嵌合した場合において、その嵌合強度は、ケースの厚みが薄くても、そこの厚みに関係なく大きく得られる利点がある(公報第三欄一三行ないし一九行)。

(ロ)  組立作業においては、単に対応嵌合部を押圧状嵌合することによつて両合成樹脂製の物体の結合を堅固に嵌合させることができるから、その組立作業を能率化することができ、また、組立時に振動を与えることがないので、時計機構等に弊害をもたらすことがない(同欄一九行ないし二四行)。

との作用効果を収めるものであるところ、これらの効果を第一引用例のものに期待できないことはいうまでもないから、第一引用例のものと本願考案との差異は、単に凹凸を逆に替えただけであつて、設計上の微差にすぎないとする被告の主張は、到底採用することができない。

以上のとおりであるから、本願考案と第一引用例のものとの前記判示の相違点を看過したうえ、本願考案の進歩性を否定した審決は、その余の争点について判断するまでもなく、違法であつて、取消を免れない。

三  よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。

〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。

合成樹脂で形成されたケース体に嵌合部を設け、一方、ケース体に取付けている時計機構の作動に一定の関連をもつて作動する作動片により断続作動させられるようにしている接点板を鋳込状に具備する保持体にも、上記嵌合部に対応させた嵌合部を設け、これら両嵌合部を嵌合わせてケース体へ保持体を装着するようにしているタイマー接点の固定部において、上記両嵌合部は、その属する本体からそれぞれ嵌合方向に長く突出状に形成させ、かつ、本体と同時に塑成し、それらのうち保持体の周側面に設ける嵌合部には、嵌合方向に長い切目を形成し、かつ、その切目に近い壁部は薄くしてそこに弾力性をもたせた複数の長孔を具有させ、これに対応する他方の嵌合部は、棒体を上記長孔に対応させた間隔に配設するとともに、長孔の内径よりやや太めにこれを塑成して長孔へ圧入することによつて、ケース体へ接点の保持体を固定しているタイマーにおける接点の固定部

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

第一図面

<省略>

第二図面

<省略>

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